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【プレスリリース】“最難関アリル化”を固定化触媒で 大幅加速

発表のポイント

?最も反応性の低い組み合わせである、単純ケトンとアリルアルコールとの反応に成功
?Pd/Cu複合金属錯体と有機官能基の協奏作用により、反応効率を15.5倍に向上
?水のみを副生成物とする環境調和型の合成反応へ展開

研究概要

 博狗买球_新博狗-体育*在线官网 大学院理工学府の坂井俊一大学院生(当時)、同大学 大学院博狗买球_新博狗-体育*在线官网の長谷川慎吾助 教、本倉健教授の研究グループは、単純ケトンとアリルアルコールという、極めて反応性の低い組み合わせのアリル化反応を劇的に加速する新規固定化触媒を開発しました。本研究は、環境調和型有機合成の新たな道を切り開く成果として注目されます。
 本研究成果は、国際科学雑誌「ACS Catalysis」(オープンアクセス、3月2日付:日本時間3月3日10時00分)に掲載されました。

社会的な背景

 本研究で開発したアリル化反応用触媒は、基質にアリルアルコールを用いることができるため、副生成物は水のみとなるグリーンケミストリーに適合した反応系を実現します。従来のアリル化反応では、ハロゲン化アリルや酢酸アリルを用いる必要があり、脱離基に由来する副生成物が生成していました。また、シンプルなケトンなどのカルボニル化合物の反応に適用できるため、複雑な構造の基質分子を事前に合成する必要が無くなります。さらに、固体触媒を用いることで、回収?再利用が容易で、工業的プロセスへの展開が期待できます。

研究成果

■ 研究の背景
 アリル化反応[用語1]は医薬品?香料?機能性材料などの合成に広く利用されており、炭素-炭素二重結合部位を基質に導入できる重要な結合形成反応です。しかし、アリル化剤として注目されているアリルアルコールは極めて反応性が低く、単純ケトン[用語2]も求核性が低いため、この組み合わせでのアリル化は「最も困難な反応」とされてきました(図1)。
これまでの研究では、均一系触媒(アミン+Pd、酸+Pdなど)による活性化が報告されてきましたが、反応性?基質適用範囲?触媒回収性などに課題が残っていました。

■ 研究の新規性
 本研究の最大の特徴は、PdとCuという異なる金属錯体を、メソポーラスシリカ(MS)[用語3]表面に精密に共固定化した「多機能固体触媒」を開発した点にあります。さらに、シリカ表面にフェニル基(Ph)などの有機官能基を共固定化することで、金属錯体の空間配置が最適化され、反応が大幅に加速されることを見出しました(図2)。この「金属 × 金属 × 有機基」の三者協奏は、1種類の金属の反応性探索や、配位子そのものの構造設計といった従来の触媒設計法とは異なる新しいアプローチです。

■ 研究成果の概要
● 有機官能基の共固定化による15.5倍の反応促進
 フェニル基を共固定化した触媒(MS/Ph/PP-Cu/PP-Pd)は、Pd単独触媒(MS/PP-Pd)に比べて15.5倍のTONを達成しました(図3)。これは、有機基が金属錯体の空間配置や周囲の微小環境を調整し、PdとCuの距離?向きを最適化するためと考えられます。さらにこの触媒は固体触媒であるため、ろ過で容易に回収し再び反応に活用することができます。Pd基準の触媒回転数(Turnover number: TON)[用語4] は600に到達しました。

● Pd/Cu複合触媒による協奏的活性化
 Pdはアリルアルコールを活性化し、Cuはケトンを吸着?エノラート化することで、両基質を同時に活性化します。論文ではX線吸収分光?核磁気共鳴分光?赤外吸収分光[用語5]?同位体交換実験[用語6]?密度汎関数理論計算[用語7]により、Cu錯体がケトンのエノラート形成を促進することが実証されました。これらの解析結果から、Pd錯体とCu錯体が基質分子を協奏的に活性化する新しい触媒作用を提案しました。

図1. アリル化反応におけるアリル化剤と求核剤の組み合わせ、アリルアルコールと単純ケトンは最も反応性の低い “最難関” の組み合わせ
図1. アリル化反応におけるアリル化剤と求核剤の組み合わせ、アリルアルコールと単純ケトンは最も反応性の低い “最難関” の組み合わせ
図2. 本研究で開発した触媒の表面構造
図2. 本研究で開発した触媒の表面構造
図3. アリル化反応における触媒活性の比較
図3. アリル化反応における触媒活性の比較

今後の展開

 本研究では固体表面で初めて可能となる「金属 × 金属 × 有機基」という三者協奏を提案し、新たな固定化触媒の設計指針を提供し、様々な高難度反応の実現へつながる可能性があります。今後の展望として、他の低反応性基質への展開や、触媒表面の微小環境を精密制御する新しい材料設計へむけて研究を展開していきたいと考えています。

謝辞

 本研究は文部科学省 科学研究費補助金(課題番号:23K23131, 25K01578, 23K13602)の支援を受けて実施されました。

用語解説

[用語1]
アリル化反応:アリル基(-CH2CH=CH2)を導入する結合形成反応のひとつ。反応性に富む炭素炭素二重結合を新たに分子へ付与できるため、化学合成において汎用されている。

[用語2]
単純ケトン:官能基として主に一つのカルボニル基(C=O二重結合)のみを有するケトン化合物。カルボニル基に隣接する炭素原子のC-H結合は反応性が向上するため、隣接位置に2個のカルボニル基を有する分子(活性メチレン化合物)が、アリル化反応の基質として一般的に汎用されている。

[用語3]
メソポーラスシリカ:メソ細孔(2-50 nm)を有するシリカ(酸化ケイ素)。触媒担体として汎用されており、本研究では金属錯体や有機分子を表面に固定化し、複数の活性点を有する高活性触媒を開発した。

[用語4]
触媒回転数(Turnover number: TON):設定された時間内あるいは触媒の失活までに、触媒活性点が目的の反応の進行に寄与した回数。この回数が高いほど、高性能な触媒であるといえる。

[用語5]
X線吸収分光?固体核磁気共鳴分光?赤外吸収分光:いずれも構造解析に活用される分光法である。本研究ではこれらの手法を用いて固定化触媒の構造を原子レベルで明らかにするとともに、反応基質との相互作用解析にも活用し、反応機構を推定した。

[用語6]
同位体交換実験:反応基質に天然存在比の低い安定同位体(Dや13C)をあらかじめ導入しておき、これらの原子の生成物への組み込まれ方で反応機構を予測することができる。本研究では、Cu錯体によってD2O由来の重水素のケトンへの導入が加速されることを確認し、Cu錯体によるケトンの活性化の証拠の一つとした。

[用語7]
密度汎関数理論計算:分子等の電子状態を、シュレーディンガー方程式を近似的に解くことで、電子密度に基づいて解析する量子化学計算手法。DFT計算。本研究ではPd錯体の反応にCu錯体が関与することで活性化障壁が低下し、反応が進行しやすくなることを証明した。

論文情報

掲載誌 ACS Catalysis
タイトル Heterogeneous synergistic acceleration of ketone α-allylation with allyl alcohol by Pd/Cu complexes on organomodified mesoporous silica
著者 Shunichi Sakai, Shingo Hasegawa, Ken Motokura(坂井 俊一、長谷川 慎吾、本倉 健)
DOI 10.1021/acscatal.5c08230新しいウィンドウが開きます

資料

研究者プロフィール

本倉 健新しいウィンドウが開きます
大学院博狗买球_新博狗-体育*在线官网 教授

お問い合わせ先

<研究に関すること>
大学院博狗买球_新博狗-体育*在线官网 教授 本倉 健
メールアドレス: motokura-ken-xw ynu.ac.jp

大学院博狗买球_新博狗-体育*在线官网 助教 長谷川 慎吾
メールアドレス: hasegawa-shingo-rg ynu.ac.jp

<報道に関すること>
総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: press ynu.ac.jp

(担当:リレーション推進課)


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